オトと食欲

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アスパラガスの「ガス」が苦手だという。最初は何を言っているのかよく解らなかった。目の前に並んだ緑色のスティック状の野菜、つまりアスパラガスのことだが、その名前が問題らしい。なんでも、「アスパラ」と言われて出されると普通に食べられるのに、「アスパラガス」と「ガス」がついた途端に食べる気が失せるのだという。

そんなことがあるものかと笑い飛ばしていたが、同席者の知り合いにも同じ症例、これはもう症例と呼んでも差し支えないと思う、アスパラガスの「ガス」が苦手な人がいるらしい。隣に座っていた前途有望な学生の話に耳を傾けるふりをしつつ、気になってさっそく調査を開始した。つまりiPhoneで「アスパラガス 名前 苦手」などとググってみたわけだが、同じ症例を2件ほど発見した時点で、隣に座っていた前途有望な学生の話など耳に入らなくなった。「それは2辺とその挟む角が等しいんじゃないかな」などと適当にアドバイスをしながら、僕は飲食物の名前と食欲についての研究活動に没頭した。

ポカリスエットというスポーツドリンクがある。近年はアクエリアスに押され気味な気がしているのだけど、ポカリスエットのCMは個人的に好感度が高く、同価格で販売されているとポカリスエットの方を手にとってしまう。ポカリスエットのパッケージには英語表記がデザインされていて、POCARI SWEATとなっている。英語圏の人たちからみると、SWEATが汗を連想させるため、あの液体が汗であるかのようなある種の嫌悪感を感じるらしい。確かに「男の汗」という名のスポーツドリンクがあったら、かなり飲みたくない。もっともニッチマーケットにおけるニーズはあるのだろうけれど。

思い返してみると、自分にも音とイメージについてずっと気になっていた食品があった。バルサミコ酢。最初にバルサミコ酢という言葉を聞いた時、それが酢であることはもちろん、食品だということすら知らなかった。バルサミコス。バルバロス、ケルベロスといったモンスター、もっと言えばデスピサロエクスデスなどのラスボスに位置づけていた。想像してみて欲しい。ラスボスだと認識していたバルサミコスを料理に投入することを知った時の衝撃を。ハバネロを超えるであろうその辛さを想像し、体中から汗が噴き出すのを感じた。もちろん、吹き出した汗の分はポカリスエットで補った。その後、バルサミコスがバルサミコ酢という酢であることを知るまでに長い時間を要した。

バルサミコ酢。文字にした時のこの違和感はなんだろうか。クリスチーネ剛田こと剛田ジャイ子を彷彿とさせるカタカナ+漢字ひと文字。それはピエール瀧とは明らかに異質であり、カタカナと漢字を分離できない居心地の悪さを感じる。ジャイって何だっけ?世界の中で自分だけが取り残されたような、そんな感覚。

調べてみると、バルサミコはイタリア語で「芳香がある」という意味らしい。そこに漢字で「酢」を付加したセンスに感心しながら、芳香はいらないので日本の酢、もっと言えば酢飯、つまりスシが食べたい、純粋にそう思った。